ホストクラブ等の広告・宣伝規制【黒塗り看板の理由】
令和7年6月28日から改正風営法が施行されましたが、
更に警察庁の通達によりホストクラブ等の接待飲食営業店の広告・宣伝にも規制がかかる事となりました。
その為一時しのぎ的に、歌舞伎町をはじめホストクラブ等の看板に記載された規制にかかる恐れのある文言が塗りつぶされるという現象が発生しています。
何故このような事態になっているのか?
風営法関連手続きを専門とする行政書士が解説していきます。
目次
広告・宣伝の規制
これは法改正では無く、そもそも存在していた法律(主に風営法第16条)の解釈を拡大変更させたことによるものです。
参考リンク▶風営法改正(令和7年6月28日施行)
風営法第16条(広告及び宣伝の規制) 風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。
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以上が風営法第16条の条文となりますが、なんとなくわかるようなわからないような、かなり曖昧に感じる方も多いのではないでしょうか。
こういった曖昧な部分をなるべく具体的にし、「警察は法律をこう解釈し、取り締まっていきますよ」という基準を示した物が「解釈運用基準」です。
これまで風営法第16条を解釈運用基準ではおおまかに
・卑猥行為が行われていることを表わすもの
・著しく射幸心をそそるおそれのある行為が行われていることを表すもの
以上を規制の対象として扱ってきました。
しかし今回の通達によれば、
「客には自身が好意の感情を抱く接客従業者の営業成績を向上させるために高額の遊興又は飲食をする意欲をそそらせるとともに、接客従業者には自身の営業成績を向上させるためには違法行為をもいとわない意識を醸成させるような状態が引き起こされることとなる。」
等の理由から広告物に接客従業者の容姿と共にその営業成績を直接的に示し、若しくは推認させ、又は接客従業者間の競争を強調する文言を表示すること等も規制の対象として扱うこととされました。
具体的に以下4つの類型が規制対象となります。
1.接客従業者の営業成績を直接的に示す文言の表示
例:「年間売上〇億円突破」、「〇億円プレイヤー」、「指名数No.1」、「億超 え」、「億男」
2.営業成績に応じた役職の名称等の営業成績が上位であることを推認させる文言 の表示
例:「総支配人」、「幹部補佐」、「頂点」、「winner」、「覇者」、「神」、「レジェン ド」、「新人王」
3.上記1.及び2.以外の「ランキング制」自体の存在、接客従業者間での優位性を裏付ける事実等の接客従業者間の競争を強調する文言の表示
例:「売上バトル」、「カネ」、「SNS総フォロワー数○万人」
4.客に対して自身が好意の感情を抱く接客従業者を応援すること等を過度にあお る文言の表示
例:「〇〇を推せ」、「〇〇に溺れろ」
これらの事情からホストクラブ等では寝耳に水の事態であり新しい看板と取り換える暇もなく、
慌てて規制対象となりそうな文言を塗りつぶしている状況となっています。
営業所内の写真・広告物の規制
更にこれらの広告・宣伝の規制は営業所周辺だけでなく営業所内にも及びます。
その根拠は営業所の構造及び設備の維持義務によります。
風営法第4条(許可の基準) 第2項 公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。 |
上記条文にある国家公安委員会規則で定める技術上の基準の一部抜粋が以下になります。
風営法規則第7条(構造及び設備の技術上の基準) 四 善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと。 |
以上から営業所内に規制の対象となる写真、広告物があると風俗営業許可を取得できないという事になります。
次の通り、許可取得後も営業所の構造及び設備の維持義務がありますので規制の対象となる写真、広告物を掲示することは出来ません。
風営法第12条(構造及び設備の維持) 風俗営業者は、営業所の構造及び設備を、第四条第二項第一号の技術上の基準に適合するように維持しなければならない。 |
ネット・SNSは対象外
風営法第16条は営業所の周辺の清浄な風俗環境を守るための規制ですので、ネットやSNSは営業所の周辺の環境と触接的には関係ありませんので対象外という捉え方が一般的です。
また、今回の通達には以下の様な記載があります。
接待飲食営業に係る広告物(常時又は一定の期間継続して公衆に表示されるものであって、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するものをいう。以下同じ。)のうち、2に掲げるような著しく客の遊興若しくは飲食をする意欲をそそり、又は接客従業者間に過度な競争意識を生じさせ、営業に関する違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出すものについては、料金に関する重大なトラブル等につながる歓楽的・享楽的雰囲気を営業所の外に拡散させるものである。そのため、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)」(令和7年5月30日付け警察庁丙保発第7号ほか)において、こうした内容の広告物が法第16条による規制の対象となることを明示したところである。 |
上記通達中の「2に掲げる」の「2」とは先述の「広告及び宣伝の規制違反に該当する4類型」の内容です。
赤字部分をご覧いただければ今回規制の対象となるのは物理的な広告物というように受け止められるのではないでしょうか?
ただし、青字の部分「これらに類するもの」という表記があります。
この文言を拡大解釈すればどうにでも規制対象を広げられ得るので注意が必要です。
まとめ
今回の風営法改正及び広告・宣伝の規制は接待飲食営業者にとっては非常に厳しい規制だと思います。
しかしながら、テレビやネットで報道されるホストクラブや大久保公園の立ちんぼ問題等を見ますと、
風営法の目的である「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため」という趣旨からすると規制もやむを得ないという感じもいたします。
一部の無法営業者のおかげで規制が強められ、健全な営業者が痛い思いをするといういつもの腹立たしい構図です。
行政書士杉並事務所は風営法関連手続きを専門としており、手続き、ご相談を受け付けております。
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